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2005.02.07

ハレルヤ、ハレルヤ!

 自分のHPのアクセス解析でリファラー(アクセス元?)を調べてみたら「少年合唱団」「ボーイソプラノ」のキーワードを検索して来て下さっている方が少なくないことがわかった。そして、そう言えば私は昔からそういうものが好きだったし、私の小説にもそういうものが頻繁に登場していることを思い出した。ついでに同じ検索リストに並んだURLから、自宅に遠くないところに本格的な少年合唱団が存在することを知った。
 幸いうちにはボーイソプラノが在る。年齢的にも入団可能だ。ようやくこれを説得して見学に行くことになった。

 さて、二月の日曜日、見学に訪れると、既にソプラノ/アルトと、テナー/バリトンの二組に分かれての練習が始まっていた。
 ソプラノ/アルトの練習室に入り、同伴のボーイソプラノを有無を言わさず練習に参加させ、私は一人、後ろの椅子で見学。
 定期演奏会の曲の練習ということだが、少年だけの合唱の純粋な響きにすぐに引き込まれた。まだ不慣れなところもあるが、若い先生の指導のもと、一人一人が真剣に歌っている。

 その中に、ひときわ輝かしい声で歌うボーイソプラノがいた。13~14歳くらいか。小学生より声量もあり、独特の迫力を持っている。
 休憩のとき、その少年が私達に話しかけてきた。初めての場所で緊張している私達に優しい言葉をかけてくれた。言葉づかいも礼儀正しくて、いかにも育ちの良さそうな気品が漂う。

「すてきな声ね。感動しちゃった」
「あ、でも、ぼく、もう声変わりしちゃったんですよ。何とかマグレで出してるけど、もう……」
「ええっ?」
 少年は明るくさりげなく言ったのだが、私はショックだった。そう言えば、話し声は明らかに変声した声だ。つまり、既にカウンターテナーであり、「マグレ」と言うからには特にその発声法の指導を受けたわけではなく、変声前の自分の声の記憶と天性の勘で習得したテクニックで歌っているのだろう。

「そんな……本当なの?」
「はい」
 過度に感傷的になっている私に、少年はさらりと答えた。特にそれで落ち込んでいるという様子はなく、現実を冷静に受け入れているといったさわやかささえ感じられた。

「あの、これ、私の本だけど、何かあげたくなっちゃったから、もらってくれる?」
「あ、ありがとうございます」
「そのペン貸して。サインしたいから名前教えて」
 私は衝動的に贈りたくなったときにその場で渡せるように、いつも著書を持ち歩いている。実際、あまり人に贈ったことはないのだが、この美しい声の少年、ボーイソプラノを既に失ってしまった少年にどうしてもこの本を渡したくなった。

 休憩の後も、見学を続けた。ボーイソプラノ、ボーイアルトの合唱の中で、やはり彼の声が際立って聴こえてくる。声変わり前の、ボーイソプラノとしての彼の最盛期の声を聴くことはできなかった。しかし、この瞬間の声を記憶にとどめておこうと、合唱の中でも際立つ彼の声の響きにじっと耳を傾けた。

 最後に、中高生のテナー、バリトンも交えてのハレルヤ・コーラス(ヘンデル作曲オラトリオ「メサイヤ」より)を聴いた。日本では珍しい少年だけの混声合唱である。12月の聖堂でのメサイヤ演奏会のときにも聴いたが、至近距離でしかも観客は私達二人だけという幸運に歓喜し、身震いするほどの感動を覚えた。大合唱の中で、彼の声が特に際立って聴こえることはない。しかし、重厚で純粋なハーモニーの中で、その輝きを失うことなく確かに息づいていた。団員一人一人の様々な色合いの歌声が互いに共鳴し、荘厳な響きの中で一つの音楽として昇華していく。

 思えば、パート練習のときに彼の声が際立って聴こえたのは、年長でキャリアがある分、曲の飲み込みも早く、不慣れな小学生の後輩達をリードしていたのだろう。後輩達は、彼のこの声を聴きながら共に歌うことで、曲を覚え、声を磨いてゆくのだろう。必ず失われる宿命にあるボーイソプラノであるが、この合唱団では、こうして後に続くものを育て、引き継がれていく。しかも、この合唱団では変声したら退団というわけではなく、テナー、バリトンのパートが待っている。

 ハレルヤ・コーラスの響きの中に、私の感傷もすっきりと昇華されていった。声変わりの時が来て、至高のボーイソプラノが失われても、その輝きは音楽の無限に広がる響きの中に、絶えず前へと進む流れの中に、なおも永遠である。


   

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Comments

やはり、ボーイソプラノとファルセットは聴いていて違ったかと思います。
ボーイソプラノのピンと張ったような緊張感が僕は特徴なのではないかと感じています。
歌える期間が短いのも、切ないのですが。
お知り合いの方、ご年配でもそんな歌声とは、すごい方ですね。

Posted by: G | 2005.04.21 at 01:12

演奏会でGさん達のファルセットを聴いて、ボーイソプラノと男声ファルセットは異質なものだと実感しました。そして、彼の声は、この時点において(演奏会でも)紛れもないボーソプラノだったと感じたのでした。

> 変声期にかかっても、今までとそう変わらない声質の人と、
> そうでない人がいるようなので、
> その時にならないとわからないのかも知れませんが、

私の声楽の師匠の友人の夫君(宗教音楽家?)で年配になってもボーイソプラノのような歌声の方がいるそうです。小5でバスに変声した団員の方もいたと聞きますし、うちのバリトンはあまり変化しなかった(そんなはずない!)なんて言っています。「声」も持って生まれたもの、成長のしかた等、人それぞれにユニークで面白いですね。歌の場合、テクニックで磨いていくことができるけれど、自分の声に合った方向を見極めなければならないし、突然声質が変わることもあり得る……。
「声」も「脳」くらいに深くて面白い世界ですよね。

Posted by: 阿璃子 | 2005.04.12 at 02:01

この時から、2ヶ月経つのですね。
見学から入団になり、演奏会のステージにも載られた事を嬉しく思います。

ひときわ輝かしい声で歌っていたマグレの彼も、(学年でですが)Mの仲間入りです。
その上の代でもソプラノで歌っているのが居るので、まだまだうしろで聴いていた感じではいけそうでしたが。
変声期にかかっても、今までとそう変わらない声質の人と、そうでない人がいるようなので、その時にならないとわからないのかも知れませんが、ご子息も変声かかる前にバリバリ歌えるとイイですね♪

Posted by: G | 2005.04.12 at 01:29

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