恐るべき子供たち ~漫画
ジャン・コクトーの『恐るべき子供たち』を読んだことはないが、知っている。面白そうだから読んでみたい。という友人が案外多いことに、最近気づいた。
日本では案外、『恐るべき子供たち』の知名度は高いかも知れない。何故かと言えば、日本には萩尾望都による漫画『恐るべき子どもたち』があるので。コクトーの名作にとっつきやすい漫画で気軽に親しめるのは幸運なことであるとも言える。
萩尾望都の漫画は、非常に原作に忠実であり、コクトーの文章のリズムがそのまま再現されている。漫画家自身の創作は、テキストにも絵にも一箇所も加えられていない。脚色のない、原作の忠実な漫画化であり、萩尾望都のジャン・コクトーに対する敬愛の念と、文学的センスをうかがい知ることができる。
萩尾望都はこの作品を描くにあたって、メルヴィルによる映画はあまり参考にしていないように思う。服装や街の風景等、時代考証はしっかりしているが、彼女が独自に調べて描いた世界であろう。登場人物の容貌も映画の俳優達には似ていない。ついでに言えば、コクトーの素描にもそっくりというわけではない。漫画家萩尾望都自身が原作を読んで構築したイメージなのだろう。16歳のエリザベートは、『トーマの心臓』のエーリクや『ポーの一族』のエディスといった、彼女の作品に登場する金髪巻毛の美少年、美少女のキャラクターに似ている。
この漫画はまた、生々しいまでにリアルである。永遠の「子供」である主人公達は容赦なく老けていく。老けると言っても、エリザベートが16→20歳、二歳年下のポールが14→18歳というだけの加齢なので、この老け具合はリアルというより大袈裟かも知れない。しかし、この老け方こそが終末に向かって突っ走る物語の残酷さを際立ている。ある意味、真実をついた表現であるとも言えるだろう。最終章はほとんど劇画タッチで、少女漫画の域を越えている。文章読解力のない人には、翻訳を読むよりも強烈にコクトーが意図したところの『恐るべき子供たち』の世界が伝わるかも知れない。
萩尾望都の『恐るべき子どもたち』は、文学性に優れた、非常に質の高い作品である。それでも私は、漫画を読む前に原作を読むことをお奨めしたい。この漫画は原作に忠実に、リアルに漫画化された作品であるとは言え、結局は萩尾望都の『恐るべき子どもたち』なので。文学はやはりテキストを読んで味わうべきである。テキストからダイレクトに自分の脳裏に浮かんでくるイメージを楽しむべきである。この漫画はなまじ傑作であるゆえ、萩尾流のヴィジュアルイメージを読者に強烈に焼き付けて、本来の読む楽しみを剥奪してしまう恐れがある。
私は最初に読んだとき、黒髪のポールとエリザベートをイメージしていた。フランス語の原文を確認してないので正解はまだわからないのだが、この漫画、スゴイと感じながら、萩尾望都が描く金髪巻毛の彼らに違和感を覚えた。そんなわけで、二歳年下の自分の弟には、エリザベート的強引さで、漫画を見る前に原作を読破することを強制した。当時十五歳で読書が苦手だった彼には酷だったかも知れない。
(C)萩尾望都 『恐るべき子どもたち』 萩尾望都(ジャン・コクトー原作) 集英社








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