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2007.05.28

金成マツノート

  アイヌの遺産「金成マツノート」の翻訳打ち切りへ
  アイヌ民族の英雄叙事詩・ユーカラが大量に書き残され、貴重な遺産とされる
  「金成(かんなり)マツノート」の翻訳が打ち切りの危機にある。 
  言語学者の故・金田一京助氏と5月に亡くなった萱野茂氏が約40年間に
  33話を訳した。さらに49話が残っているが、事業を続けてきた北海道は
  「一定の成果が出た」として、 文化庁などに07年度で終了する意思を
  伝えている。     (2006年8月 朝日新聞記事より)

この記事については、『週刊古代文明ビジュアルファイル』16号「アイヌ・ユーカラに隠された史実とは?」にも書いた(私が)。
「文化庁は「金成マツノート」の翻訳に民俗文化財調査費から28年間、年に数百万円を支出してきた」が、現時点でまだ約半数が箕訳のまま残されており、このペースでは「全訳するのに50年程度かかりかねない」とのこと。
年間数百万円と言えば、大体一名の人がフルタイムで働く場合の人件費に当たるのだろうが、北海道が民俗文化財調査費として文化庁から提供されるお金の約半数を使ってきたとのこと。

金成マツ(1875~1961)は、『アイヌ神謡集』の著者である天才少女知里幸恵(1903~1922)の伯母、そして義母である。幸恵を養女とし愛情を注いで育てていた。アイヌの口承文芸ユーカラの語り手「ユーカラクル」の家系に生まれ、彼女自身も優れた語り手であり、アイヌ学の創始者金田一京助に多大な影響を与えた偉大な女性である。マツは敬虔なキリスト教徒であり、16歳のときの怪我が原因で半身不随の身であるにも関わらず、熱心に伝道活動を行なっていた。
愛娘幸恵が19歳で夭折するという衝撃と悲しみを乗り越え、マツは彼女の遺志を継いでアイヌ文化の伝承のだった。それは直接伝承された最後のユーカラクルであり、英語も堪能でローマ字筆記の術を心得たマツの他には誰にもやり遂げることのできない偉業であった。

翻訳も遺してくれたらよかったのに等と言ってはならない。できるだけ多くのテキストを後世に伝えることが彼女の使命だったのだから。彼女が記憶していた全ての言葉をテキスト化することができたのかは疑問だが、87歳で没するまでにローマ字でユーカラが綴られた72冊のノートを遺してくれた。
翻訳プロジェクトはうまく進んでいないということだが、私が心配なのは、貴重なテキストが完璧な状態、利用可能な状態で保存されているかということ。金成マツノートは、決して失われてはならない貴重な文化遺産である。ページ毎にマイクロフィルムなどで保存されているだろうか? ローマ字で筆記されているのなら、デジタル化することは難しくないと思うが、できているのだろうか? もしまだなら、私、タッチタイピングは速いので入力してあげますよ。ただ、不注意で現物を破損する恐れがあるので何らかの方法で複写されたものを渡してください。デジタル化されていれば、ネットを利用して、翻訳作業もスムーズに進むはず。・・・・・・いや、まさか、年に数百万円も予算が投じられていたなら、テキストデータのデジタル化がまだ完了してないはずはない。

   

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Comments

ご挨拶も無しにトラックバックさせて頂いてしまったのに、
ブログにコメントまで頂いて、感激です。
ありがとうございます。

アイヌの文化は、無くしてしまってはいけないと思います。

遠野さんの記事はどれも面白いので、
またトラックバックさせて下さい。
どうぞ、宜しくお願い致します。

Posted by: 虫一郎 | 2007.05.30 00:13

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» アイヌ 金成マツノート [パールズの庭]
『書き急げ! 時間がない! 'blog』 作家・遠野阿璃子 ●アイヌ文化が好き ●知里幸恵の『アイヌ神謡集』 ●金成マツノート 金田一京介さんは、アイヌの同化政策の賛成論者だった。 唯一残されているノートは、本当に大丈夫なんだろうか。。。 必要なら私だって入力のお手伝いをしたいくらいだ。 私もアイヌの文化なんてちゃんとは知らないのですが、 でも、生物が平和に暮らすヒントが絶対あると感じるのです。 失ってはならない最後のノートだと思います。 ... [Read More]

Tracked on 2007.05.29 02:39

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