« 高橋大輔の新たなる挑戦、ヴェリズモ・オペラ「道化師」を熱演! | Main | フィギュアスケーター羽生結弦に捧ぐ妄想 »

2013.01.08

羽生結弦、熾烈な優勝争いに勝利! ノーミスながら無念の4回転サルコウ

フィギュアスケート全日本選手権 レビュー (3)

 高橋大輔の熱演の直後には清涼剤としてちょうどよい(こんなことを言っては申し訳ないが)淡泊なまでに上品な中村健人という絶妙の滑走順になっており、ブレードの故障で直前に棄権という堀之内雄基の気の毒だが珍しい災難や小塚崇彦の不調による番狂わせといったハプニングもあり、そして、何といっても全体的なレベルの高さで、今シーズンの男子シングルFS後半戦は全体として見応えがあった。

 そして、最終滑走者は、SPで自己の史上最高得点を凌駕した羽生結弦。SP2位の高橋が歴史に残る名演技で観客を沸かせた後で追い上げてきた後で滑るのにはプレッシャーに打ち勝つ精神力が必要だ。今シーズンの羽生は、SPでは史上最高得点を獲得し自ら更新するほどの完成度の高さを見せているが、FSでは何かしらミスが出ていた。

 FS後半でのスタミナ切れは羽生がまだ克服していない課題だが、スタミナ維持に配慮した構成が組まれたことは恐らく一度もない。コーチも、振付師も、この若く才能あふれるスケーターを甘やかすことは決してしないし、彼自身も常に挑戦する姿勢を崩すことはない。FSの後半にも容赦なく迫力ある動きやジャンプを入れ、全体のバランス、得点のためにも最良の構成となっている。FS後半のスタミナ切れや集中力の途切れで些細なミスをきたし、優勝を逃したことも何度かあり、そうした若さや青ささえも、彼の魅力だった。

 ところが今シーズンの羽生は、FSでの課題を克服しないうちに、優勝を手中にできるようになっていた。SPで史上最高という高得点を獲得し、FSが万全でなくても逃げ切ることが可能になったのだ。今回もSPを終えた時点で2位の高橋に大差をつけることに成功していたが、高橋が圧巻の「道化師」で追い上げてきたため、FSを完璧に滑り切らないと優勝は難しくなった。

 恐らく初めて体験する重圧、しかも最終滑走者というプレッシャーに、18歳の高校生、羽生結弦は打ち克つことができるのだろうか? ファンとしては、出来栄えよりもそちらの方が心配だった。

 今回のFSプログラムは冒頭に2つの4回転ジャンプを、トゥループサルコウという2種類で入れ、コンビネーションジャンプトリプルアクセルなど高得点のジャンプを盛り込んだ、難度が高く、その分得点が稼げる構成となっている。そして、現在、男子では彼にしかできない、彼にしか似合わないビールマン・スピンやイナバウアーも外すことなく、ファンの期待に応えてくれている。いつもは終盤で見せるビールマン・スピンを、今回は中盤で当たり前のようにやってのけている。

 大丈夫。計算されたプログラムを予定された通りにこなせば勝てるから……。でも、まだ若いんだし、もし何かが起こっても、それはそれでいい経験だから……。

 否、そんな感傷的な応援は今の彼には不要だった。2種類の4回転ジャンプの着氷が両方とも乱れたものの、記録上はノーミス。綿密に設計されたプログラムを確実にこなすことができた。結局、史上最高得点更新のSPのスコアとの合算で、羽生のスコアが高橋を上回った。こうして、全日本選手権史上稀にみる熾烈な闘いとなった高橋、羽生の優勝対決は羽生の勝利に終わった。

 得点が示す通り、FSの出来は高橋のほうが上回っていた。羽生のFSには4回転ジャンプの不確実さ、後半のスピードダウンなど、まだまだ課題が残されていた。そして、それは誰に指摘されるまでもなく羽生自身の身に染みていた。FSを滑り終えたとき、記録上ノーミスであることはわかっていただろう。しかし、彼は笑顔をみせず、4回転サルコウで着氷した地点を確認に行った。減点対象にはならなかったものの、彼にとっては決して満足のいく結果ではなかった。そんな彼の姿がまたファンの感動を誘った。彼はまだまだ成長していくだろう。

 「もはやあどけなさはない」と成長ぶりが強調されている羽生。SP「パリの散歩道」はシンプルに洗練されたモノトーンの衣装で、イメージチェンジを狙ったのかとも思われたが、FS「ノートルダム・ド・パリ」のコスチュームは、白地にピンク~赤のグラデーションが入ったカラーリング、そしてフリルの入ったジョニー・ウィアー風。まだあどけなさの残る彼によく似合っている。ついでに言えば、ジョニー・ウィアーが2008-2009シーズンのFSを同じ曲で滑ったときの黒い衣装に似ており、同じ位置に大きな十字架がある。
 
 この種のデザインが彼自身の好みなのだとしたら、似合うのだから、その感性もいつまでも大切にしてほしいと願う。成長することを期待され、応え続けている彼であるが、自分自身の方向をしっかりとつかんでいてほしいと思う。これも無用の心配だろうが。

 ジョニー・ウィアー不在中の寂しさを埋め合わせてくれる存在として、羽生結弦を応援してきた私であるが、この瞬間、すっかり彼自身のファンになっていることを自覚した。この文章自体、「フィギュア・スケーター羽生結弦に捧ぐ妄想」というタイトルで書き始めたものだが、前置きの全日本選手権レビューが長文化してしまった。

 ついに羽生結弦が頂点に立った日本のフィギュアスケート男子シングル。これからもますます面白くなっていくことだろう。世界選手権、そしてソチ・オリンピックが楽しみだ。

 
  
  

|

« 高橋大輔の新たなる挑戦、ヴェリズモ・オペラ「道化師」を熱演! | Main | フィギュアスケーター羽生結弦に捧ぐ妄想 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 羽生結弦、熾烈な優勝争いに勝利! ノーミスながら無念の4回転サルコウ:

« 高橋大輔の新たなる挑戦、ヴェリズモ・オペラ「道化師」を熱演! | Main | フィギュアスケーター羽生結弦に捧ぐ妄想 »