
「パンがないなら、ケーキを食べたらいいじゃない!」
今日1月21日はルイ16世の命日。しかし、この台詞を言ったのは、ルイ16世妃マリー・アントワネットではなくて、ルイ14世妃マリー・テレーズだったという説もあるので、これから書くことは「マリー・アントワネットの擁護」とは無関係です。
と、断ったうえで・・・・・・「パンか、ケーキか?」というのはとても微妙な問題。そもそも、人類が先に口にしたのはパン? それとも、ケーキが先?
わかっているのは、パンよりも、ケーキよりも、「お粥」が先だったということ。教養ある王妃なら、「パンがないなら、お粥を食べたらいいじゃない!」と言ったことでしょう。そして、こう言ったとしてもやっぱり、自分たちはパンを食べてるくせに、貧民には粥をすすれとはけしからん!と、非難されたにちがいありません。
小麦粉をこねて焼くパンやケーキは、小麦の食べ方としては、進化した形態。小麦はとりあえず加熱したら食べられるので、煮て食べるのが原初の食べ方だったそうです。小麦が栽培化されて、農業生産が安定した頃には、「お粥」が主食になっていたとのことです。
ある日の炎天下、お行儀の悪い人がお粥を食べこぼしてしまいました。石の上にこぼれたお粥が太陽の光でパリパリに焼かれて、美味しそうだから食べてみました。・・・美味しい! このシンプルなガレットがパンの起源ともケーキの起源ともいわれています。
パンとケーキ、どっちが先? を考える前に、まず、パンとは? ケーキとは? ということをはっきりさせておきましょう。主食として生きるために食べるのがパン、間食やデザートとして楽しむために食べるのがケーキ。そう仮定したら、軍配はパンに上がりそうです。でも、お粥を主食にしていた期間、この小麦粉の薄焼きはパリパリに食感を楽しむためのお菓子、つまりケーキだったかもしれません。実際、お粥好きの古代ローマの人たちは、パンよりもケーキを先に食べていたようです。
発酵させたのがパン、甘くしたのがケーキ。こう仮定して、発酵酵素を入れて焼いたのと、蜂蜜を混ぜて焼いたのとどちらが早かったのか突き止めれば、どちらが先か決着がつきそうです。でも、二人の考古学者さんに直接質問したところ、現段階の研究でははっきりしないらしいのです。発酵させる技術が確立したのは古代ギリシャだったともいわれ、対して蜂蜜が小麦以前にも存在して利用されていたことは確かなので、ケーキの方にむしろ分があるかも知れません。
そんなわけで、「パンが先? それともケーキ?」という謎はまだ謎のまま。謎のままにしておいた方がパンもケーキも美味しく食べられるような気がします。
●参考文献
「お菓子の歴史」(マグロンヌ・トゥーサン=サマ/吉田春美訳/河出書房新社)
「名前が語るお菓子の歴史」(ニナ・バルビエ、エマニュエル・ペレ/北代美和子訳/白水社)
「パン」(レーモン・カルヴァル/山本直文訳/文庫クセジュ)
「コムギの食文化を知る事典」(岡田哲/東京堂出版)
「世界たべもの起源事典」(岡田哲/東京堂出版)
「食の文化を知る事典」(岡田哲/東京堂出版)
「たべもの超古代史」(永山久男/河出文庫)
「世界の食材探検術」(吉村作治/集英社)
パンについては、
【古代文明ビジュアルファイル34号】「歴史を育む大地の恵み パン食文化8000年の歴史」
※既刊(2007年9月25日発行)
ケーキについては、
【古代文明ビジュアルファイル64号】「甘美なる誘惑 パティスリーの歴史」※足立夕佳=遠野阿璃子執筆(2008年4月28日発行)
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