グロリア少年合唱団 第45回定期演奏会 レヴュー
2005.4.8. 鎌倉生涯学習センター
420余年前「地の果てからの使者」4人の少年は海を渡った…
「天正少年使節の旅」
―葡萄牙・西班牙そして伊太利亜へ―
品格を感じさせる舞台
グロリア少年合唱団は、1959年に創立された、日本最古の歴史を持つ少年合唱団である。鎌倉カトリック雪ノ下教会を本拠地とし、ヨーロッパの伝統的スタイルによる本格的な宗教曲に取り組みつつ、定期演奏会や特別演奏会では、世界の児童合唱曲や音楽劇、オペラも取り上げ、豊かなレパートリーを確立している。
今回のテーマは「天正少年使節の旅」。第一部では、天正少年使節が旅したイタリア、スペイン、ポルトガルの歌が特集され、第二部では、天正少年使節を題材としたオペラ『忘れられた少年』第一幕から13曲が演奏された。OB中心のグロリア男声合唱団も出演。
定期演奏会も今年で45回目を数える。半世紀近く確実に、独自の音楽が受け継がれてきた伝統ある少年合唱団ならではの品格を感じさせる舞台であった。
ここでグロリア少年合唱団を語るうえで重要な要素である「クラス」編成について触れておく。。
●Cクラス ちびっ子クラス。幼稚園年中~年長。
●Bクラス 二部合唱にも挑戦。小1~小3。
●GMクラス 混声四部合唱に取り組む。小4~変声前がG、変声後~高3がM。
GMクラスは、メサイア演奏会や聖堂演奏会、海外演奏旅行等で本格的な宗教曲に取り組み、高い評価を博している。卒団後はグロリア男声合唱団に入団し、生涯に渡って音楽活動を続けていくことも可能だ。私が理解している限りにおいて、グロリア少年合唱団では、各クラスの独自性が重視された音楽教育が徹底されている。Cクラス、Bクラス、GMクラスは、別々に練習を行い、共に歌うことはあまりない。今回の定期演奏会でも、このスタイルが貫かれており、最後の全体合唱を除いて、各クラスが独自のプログラムを演奏した。
第一部 ポルトガル、スペイン、イタリアの歌
第一部では、まず、Bクラス、Cクラスが児童合唱に編曲されたポルトガル、スペイン、イタリア各国の歌を歌った。初めて聴く曲も多かったが、幼い少年達が完全暗譜で真剣に、そして楽しそうに歌っている姿が微笑ましく、どの曲も親しみを持って聴くことができた。
「ちびっ子クラス」のCクラスは、いかにも元気で可愛らしい。十人くらいの少人数で、(幼児だからという贔屓目はなしで)十分に観客が共感して楽しめる歌を歌っていたのだから、一人一人が十分な声量を持っている(あるいは効果的な発声法を体得している)と評価してよいだろう。
選曲も良く、まさにこの年頃の子供の声で聴きたい曲が選ばれていた。どの曲も魅力的だったが、特にイタリアの子供の歌「がちょうのおばさん」や「自転車になったカメの歌」といった、動物が出てくるファンタジックな歌が特に楽しかった。訳詞を楽しめたということは、日本語の発音が良いということである。愛らしい持ち味もさることながら、発声と発音という基本がこの年代にしてしっかりとできている。今後の成長が楽しみである。
小学校低学年の児童によるBクラスには、Cクラスの童謡とは一線を画する選曲がなされており、「禁じられた遊び」等、馴染みの深い曲もあった。ポルトガル語やスペイン語の原語の曲も難なくこなした。変声前の少年に限定したいわゆる少年合唱団のイメージに近いのは、Mクラスと共に混声四部合唱に取り組むGクラスよりも、むしろBクラスの方かも知れない。ソプラノ、アルトの二部合唱のハーモニーも美しく、特に短調の曲の繊細な響きが心に残った。
1曲目よりも2曲目、2曲目よりも3曲目と、時間を経るにつれて、声が調子に乗っていくのがはっきりとわかり、その場のムードを共有して共感しながら盛り上がっていく合唱の面白さが感じられた。
第一部の最後を飾ったのは、GMクラスによるヴィヴァルディの『グロリア』。いきなり、圧巻である。グロリア男声合唱団の大人も交えてのテノール、バスに、ボーイソプラノ、ボーイアルトの清澄な響きが映える。重厚なテノール、バスに埋もれない凛としたスピントな響きが変声前の少年の歌声にはある。特に、豊かな声量と響きを持つ変声直前直後のボーイソプラノ/アルトの声が輝く。絶妙なバランスである。
BCクラスにはある音域を超えると声が裏返る歌い方であったが、Gクラスにおいては完全に克服されている。
「Gloria! Gloria! Gloria! 」とリフレインされるグロリア唱に、グロリアの本領が全開で発揮される。無垢とか純粋とか言った言葉がぴったりなBCクラスの歌を楽しんだ後に、突然、GMクラスの『グロリア』、昨年の特別演奏会でも演奏した十八番のレパートリーをぶつけてくるのは効果的、と言うか衝撃的である。第一部を通じて、C,B,G,Mと成長していく少年達のドラマ、大きな音楽の流れが感じられた。
第二部 柴田南雄作曲 オペラ『忘れられた少年』第1幕より
当演奏会のテーマである「天正少年使節の旅」を描いたオペラ『忘れられた少年』の第一幕をオラトリオ形式で上演。派手な演出はないが、団長で指揮者の松村先生の力強く気品ある語りに導かれ、合唱の魅力が生きる感動的な舞台に仕上げられていた。
G(ボーイソプラノ、ボーイアルト)のみの曲、M(テノール、バス)のみの曲もあり、それぞれの魅力を楽しむことができた。
歌は声帯だけではなく全身の響きで歌うものであるから、一般に(テクニックの問題もあるので一概には言えないが)体格が充実していると響きも充実してくる。子供であるボーイソプラノ/アルトに十分な響きを求めるのは難しいが、Gクラスの中学生の団員には、それが可能だ。幼い頃からグロリアで磨き上げられた声が、逞しく成長しつつある全身に共鳴して、芯のある美しい響きに昇華する。その響きは、女声のソプラノやアルトとは異質の、青年へと進化していく過程にある少年の声、若々しい男声の響きである。その境地に至ったらもう変声期も近いということであり、Gのみで歌われた短い曲『信じましょう、主のみわざを』では、そんなボーイソプラノ/アルトの声をちょっと感傷的な思い入れをもって堪能した。
M(+グロリア男声合唱団)のみの曲には、技術的なレベルの高さが感じられ、序曲に続く導入曲である『ときゆく者のヴォカリーズ』の迫力のあるハーモニーに圧倒された。『O Vos Omnes』(T.L de ヴィクトリア作曲)では、ヨーロッパの教会音楽の伝統であるファルセットの歌唱も披露した。これだけの人数による男声ファルセットの合唱を聴いたのは初めてであり、その暖かみと深みのある声に癒しを覚え(ファルセットにはもう一つ特異な種族が存在することを私は知っているがここでは触れない)、ファルセットの魅力を知ると同時に、ボーイソプラノの魅力を再確認した。
第二部では、Gクラスの小6~中1くらい(天正少年使節が旅立った時とほぼ同年齢)の団員が従者服を着てソリストを務め、語り、歌唱ともに好演した。戸川先生(前日に交通事故で重傷を負い車椅子で出演!)と服部先生によるヴァリニャーニョと大名の二重唱、陣内先生によるベルナルドのレシタチーフとアリアも素晴らしく、少年達が目標とするに申し分ない歌声であった。
奇しくも、当日は教皇ヨハネパウロ二世の葬儀の日であり、天正少年使節がローマを訪れたときにもちょうど教皇の葬儀が行われていたらしい。グロリアの第1回海外演奏旅行で謁見したヨハネパウロ二世を偲んで歌が捧げられた。
最後を飾ったのは、天正少年使節が最初に上陸したポルトガルの民謡『ローズマリーの歌』。ここで初めてグロリア少年合唱団、グロリア男声合唱団、指導者の全員が舞台に上がり、大合唱となった。約100名を擁するという団員の数、そしてその歌声に、これからも確かにグロリア少年合唱団の歴史が続き、この音楽が受け継がれてゆくという希望を感じた。
幼児のあどけない歌から、純粋な児童合唱、至高のボーイソプラノ/アルト、青年の若々しいテノール/バス、重厚な響きを持つ大人の声、そしてファルセットまで、男声歌唱芸術のあらゆる要素を堪能することのできる演奏会であった。
10月5日には、 グロリア少年合唱団の 特別演奏会が鎌倉芸術館大ホールで開催される。天正少年使節の行程を辿り鎮魂歌を捧げるスペイン・ポルトガル旅行のプレ公演である。四月の定期演奏会の成功から半年近く経つが、このときの舞台で味わった感動が次の特別演奏会でも生かされてくるだろう。この夏、少年たちは、厳しい合宿や普段の倍以上の練習でさらなる研鑚を積んだ。熱い夏を越えて、この秋、彼らの芸術がまた新たな豊饒をむかえ、至高の輝きを放つことが期待される。
*遅れ馳せながら(遅れすぎ!)のレヴュー。ブログの文章としては長すぎてすみません。コンサート評としては長くないでしょ? 未校正なので後でまた直します。
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