2007.09.29

自閉萌え

2006_1216044発達障害に関して楽観的な見解を述べると、「そんなに世の中甘くない」 とか、「誤解されるからやめて」 などと、親御さんたちや指導者さんたちから言われることがある。ネットの掲示板やSNSの相談コーナーでも、甘口のアドバイスをしたばかりに辛口の反論を浴びるハメになった人をよく見かける。


なので、こんなこと言っちゃってゴメンナサイ。
と、先に謝っておいたうえで、


断言: 自閉萌え~ な人もいますよ。


いや、実際いるのである。例えば、私の親友のリカちゃん。グラマラスな健康的美人で、社会性もあって仕事もデキルという才色兼備女性。もちろん、モテモテ~。英語もペラペラなので、日本人の他、アメリカ人、イギリス人、フランス人、ケニア人・・・のイケメンから「アイラヴユー」や「ジュテーム」をゲット。

その彼女の人生を私が知っている限りで振り返って・・・
「結局、貴女が一番愛したのはアスペ傾向の男性なのね」
ちがう~!!と断固否定する彼女だけど、私、知ってるもん。夭折した彼はいつも同じシャツ&ベストだったし、今、一緒に暮らしている彼はナッシュのような天才肌の数学者。否定してもムダ~!


もう一つ、このブログのデータから証拠を提示。当ブログ中、人気ナンバー2の記事は、コチラ↓
スウィング・ガールズ
そして、連日検索ワードの上位に上がるのが「関口香」「関口萌え」。

関口香織は、本仮屋ユイカ扮するトロンボーン吹きの女の子。メガネが似合う彼女は、人一倍テンネンでテンションが低く、カシマしいガールズの中でも浮いた存在だ。彼女は「アスペルガー症候群」。と、私のような素人が断定することはできないが、AQ(自閉症スペクトラム指数)テストで高得点を取ることはまず間違いないだろう。(この記事より)

この映画のこのキャラに萌える人がいるということは、つまり、アスペ萌え~な人がいるということ。


この子たちが好きだからと、障害児施設の指導員を続ける先生方、こんなに純粋で素晴らしい人たちはない!と愛を語る精神科医や心理士の先生方も、講演会などでよく見かけます。


いるんです、絶対いるんですよ。自閉萌え~な人たちが。
もしかしたら、当事者さんより萌え~な人たちの方が多いのではないでしょうか?


だから、大丈夫! 社会に出て行きましょう。
萌え~な人たちが助けてくれます。あなたは彼らの愛に気づかないかも知れないけれど、そんなあなたにまた萌え~という人もいるんです。


以上、楽観論でした。
甘すぎますか? お許しください。
当事者としては、楽観論を主張して、楽観的に生きるしかないんです。

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2007.09.19

ビビーさんの煙草  

血の気の多い方、またはADHD/多動・衝動性優勢型の方へ

カッとしてもすぐに衝動的に動かないで、自分を抑制しましょう。
行動をワンテンポ遅らせるようにしましょう。
制御機能が不十分なのが、貴方の脳の特徴だということを忘れないで。

ADHD/多動・衝動性優勢型の人は、こんなふうに主治医からアドバイスを受けたことがあるかも知れません。自分を知るための本を読んだらこんなふうに書いてあるかも知れません。

トラブルを起こさないためには、反応を遅くした方がいい。特に、カーーーッとしたときや、ネガティブな心理状態になったとき。

でも、そう言われても、難しいですよね? 当事者の私も実感しております。


ところで、行動を遅らせるのは、トラブルを防ぐためだけではありません。創造的な一歩を踏み出すためにも、ワンテンポ小休止した方がいい場合もあります。ネガティブなシチュエーションだけでなくて、ポジティブな場合も。チャンスがめぐってきたとき、すごい発見をしたとき、すっごいアイデアがひらめいたときも。そのときの勢いで突き進むのもいいでしょうが、そんなときだからこそちょっと一息ついてみるのもいいかも。

この本にいい例があったので、紹介しますね。

著者ジョフレー・ビビーさんはバーレーン島で古代への情熱に目覚め、石油会社の経営者から考古学者に転じた人。バハレーン島の遺跡で本格的な発掘を始め、珍しい円形の印章を発見したとき、ビビーさんはまずどうしたか? 読んでみてくださいね。

「ある有名なフランスの考古学者が、重要な発見をしたときにまずその場でやる一番大事なことは、タバコに火をつけることだと言っていたことがある。そうしたときには、あわてて事をなさず、宝探しの本能が科学的本能に打ち勝つことを許さず、むしろ一切の仕事を中止し、静かに座ってその発見の意味するあらゆることについて思いをめぐらすことこそ絶対に必要だからである。そこで私は一同に彼らの共同の水煙草を回し飲みするように言いきかせ、私もパイプに煙草をつめて火をつけ、一番近くの「バルバル」の家の入口階段に腰を下ろして印象を眺め、かつ考えた。」(178-179ページ)


ここで煙草で一息ついたために、ビビーはメソポタミアの円筒印章とも、インダスの四角形印章とも異なるこの円形印章はディルムン独自のものではないか? という画期的な仮説を立てることができたのです。そして、後の発掘で製造所も発見され、この仮説は立証されます。

発掘現場で煙草をくゆらし、情熱ゆえに情熱を抑制する男達・・・
かっこいい!
突っ走る前に一呼吸クールダウンしたからこそ、確実な一歩が踏み出せたともいえるでしょう。 

このとき、喜び勇んで堀り続けていたら、このヒラメキはなかったかも知れません。がむしゃらに突き進むばかりが前進ではないのです。要所要所で立ち止まってこそ大きな一歩が踏み出せるのでしょう。

遺跡で煙草ってどうよ? ちょっと思うのですが、ビビーさんの煙草みたいに、あなたもクールな小休止のスタイルを確立しておくといいでしょう。それで大成功!になったら、みんなあなたに着いてきてくれます。

突き進むあなたのペースに着いて来れない人は多いでしょうが、普通の人は、あなたの小休止に付き合って待ってくれるだけの忍耐強さは備えているはず。

   

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2006.05.16

人には優しく、自閉症の人にはもっと優しく

 人をいじめてはいけません。
 それはわざわざ言う必要もない当たり前のこと。誰でも良識として知っているはずのこと。老若男女、美醜、貧富を問わず、生きとし生ける全ての人をいじめてはいけません。

 でも、これはあなた自身のためにあえて言うのですが、特に自閉症の人をいじめてはなりません
 自閉症の人たちは高い長期記憶の能力を持っている場合が多いので、あなたがほんの悪ふざけのつもりでしてしまったイジメを一生忘れることができません。嫌なことをいつまでもウジウジ覚えてるなんて嫌な奴・・・なんて言わないで。嫌なことでも忘れることができない長期記憶の能力を持っているのは不運なことなのです。イジメで受けた心の傷を一生抱えもって生きていくことになるのですから。

 高機能自閉症者の森口奈緒美さんの自伝『変光星』『平行線』には、彼女が受けたイジメのエピソードが数多く登場します。中学校時代の同級生「モーリ」という男の子や、専門学校時代の「サイコ」という女の子が格別にリアルな筆致で描かれていて、読んでいる方も感情移入して憎しみを抱いてしまいそうです。彼女と同じ学校だった人がこれを読むと、「モーリ」や「サイコ」が誰だったかわかるはず。本人達にとっては若気の至りの過ちに過ぎなかったのでしょう。まさか彼女の心の奥深いところに記憶され、記録されて出版されてしまうなんて、夢にも思わなかったでしょう。
 『自閉症だった私へ』で有名なドナ・ウィリアムズも、愛情に欠けた母親や、薄情なボーイフレンド、単位をくれなかった大学の先生のことを赤裸々に記録しています。 実名は書かなくても、読む人が読んだら誰のことだかわかるはず。
 自閉症の人をいじめたら、こんな報いがあるのです。

 言葉が苦手なタイプのの自閉症の人たちは、誰かに言いつけたり、文章に記録したり、訴訟を起こしたりすることはしないでしょう。でも、一生忘れてくれません。醜いあなたの一面を、あなたがそれを克服し反省し謝ったとしても、忘れることができません。トラウマと共に一生記憶しているのです。醜いあなたがリアルな映像で永久保存されることもあります。

 
 もうひとつ。
 人には優しくしましょう。これもわざわざ言う必要もない当たり前のこと。誰でも良識として知っているはずのこと。老若男女、美醜、貧富を問わず、生きとし生ける全ての人に優しくしましょう。

 でも、これはあなた自身のためにあえて言うのですが、特に自閉症の人には優しくしてあげてください。
 自閉症の人たちは高い長期記憶の能力を持っている場合が多いので、あなたの何気ない優しさを一生覚えていてくれます。

 森口奈緒美さんの『平行線』には、音楽活動中に気分が悪くなった彼女にみうらじゅんさんがさりげなく椅子を差し出してくれたというエピソードがあります。
 ドナ・ウィリアムズも、少女時代に優しくしてくれた友達のお母さんや、お世話になった精神科の女医のことを感謝をこめて記録しています。
 とても感動的なシーンなので、読んだ人もホロリとなります。

 言葉が苦手なタイプの自閉症の人たちは、あなたの優しさを文章に記録したり、感謝の言葉を言うこともないかも知れません。でも、たぶん、あなたの優しさを忘れることはありません。心の深いところで、ずっと覚えていてくれます。素敵なあなたのことを映像で永久保存している人もいます。その場で大げさに御礼を言ってもすぐに忘れてしまう人より、うまく感謝を表現できなくてもずっと覚えていてくれる人の方が、ある意味、ずっと誠意ある人だと言えるかも知れません。


 というわけで、
 自閉症の人をいじめてはいけません。
 自閉症の人には優しくしてあげてください。
 あなた自身のために。

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2005.11.04

昭和の悪夢?


 「昭和」を古き良き時代として回想するのが流行っているようだが、昭和40~50年代は悪しき時代だった。少なくとも彼女にとって。
 森口奈緒美の自伝『変光星』には、高機能自閉症である彼女が、当時において、普通の人々からいかに酷いいじめを受けてきたかがリアルに語られている。


 私もほぼ同年代なので当時のことは記憶に残っている。私の記憶する限り、昭和40~50年代頃は、「協調」が美徳であった。クラスにおいては「みんなのために」が最優先事項であり、個人の都合を主張できない雰囲気があった。クラスのためには、生理中でも水泳大会に出なければならない、泳げなくてもくじ引きで当たったら50m自由形競泳に出なければならなかった。学校では、戦後のドサクサで教師になったオバサン教師が「みんなのために」「みんなのために」と唱え、はみだした生徒達を率先していじめていた。普通が好まれ、目立つと顰蹙を買った。


 以上は、私の主観的な記憶による昭和40~50年代像であるが、そんなわけで、彼女の比ではないが、私も同種の生きにくさを感じていた。
 ついでに言えば、1967年に出版されたベッテルハイムの悪書によって自閉症者とその家族への陰湿な迫害が始まったのもこの時代であった。
 「昭和」は、自閉症の人にとっては生きにくい時代であった。個性、個人の尊厳、多様性の容認といったことが重要視されるようになったのは、日本においては昭和末期からであったように思う。私の記憶する限り、平成になってからの方が、教育においても「個性」が重んじられ、個人が大切にされる風潮が高まり、少なくとも自閉症の人にとっては、良い時代になってきたのではないかと思う。


 昭和回顧の映像は、昭和につらい子供時代を過ごした自閉症の人達にとっては、思い出したくない過去をフラッシュバックさせる悪夢なのかも知れない。

【ご参考に】

『変光星』 森口奈緒美著 花風社 ISBN: 4907725590 (2004/01)
自閉症納言のホームページ(森口奈緒美さんのHP)

コメントを下さったマキさんのHP http://makinomasaki.com/ に「昭和」に関する興味深いエッセイがあります。
『三丁目の夕日』


*冒頭に挙げた画像は、最近封切りされた映画「Always 三丁目の夕日」関連の本の表紙。
 この映画は昭和30年代が舞台ですが、イメージ写真として。


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2005.03.01

光の中のピリカ

「あたし、光をみたの」
 またピリカが変なこといってる。ルオとカイはくすっとわらいました。でも、ピリカはいっしょうけんめいです。
「あたしがみたのは、お日さまの光よ。電気の、じゃないわ」
「おひさまって?」
 ルオがいいました。
「空にある、お日さま」
「そら? ああ、太陽ね」
 カイがいいました。
「あたし、みたのよ。上の、上のほうに。あれはきっとお日さまの光よ。うそだと思うならついてらっしゃい」
 そういうと、ピリカはいきなり走りだしました。
「まってよ、ピリカ」
 ルオとカイも走ってみましたが、おいつくことはできません。
「まったく、ピリカって!」
 ピリカはふしぎな女の子。走りだしたら止まれなくって、とにかく元気なこと。じっとすわっていることができなくて、いつも先生にしかられています。
ルオは、勉強ならだれにもまけないけど、体がよわくて、すぐに病気でねこんでしまいます。カイは、絵ならとくいだけど、やっぱりよわくて、走るとすぐに足がいたくなってしまいます。ここで生まれた子どもたちは、みんなとてもよわいのです。
「あんたたち、それでも男の子?」
 ピリカがもどってきて、大きな声でいいました。あんなに走ったのに、汗ひとつかいていません。
「ほんとに、ピリカって!」
 ルオとカイには、ピリカの青い目がまぶしくてたまりませんでした。
 ピリカは勉強ができないし、ときどきおかしなことをいうけれど、だれよりもはやく走ることができます。そして、だれよりもすてきに、おどることができるのです! 
 ルオとカイは、ピリカが大好き。だからいつもいっしょにいて、いじめられないように守ってあげているのでした。


「ピリカのような子は、この三十年ではじめてだ」
 と、大人たちはみんないいます。
 三十年前、「最後の戦争」で、地面の上にいた人は、みんな死んでしまいました。地下のシェルターににげた人だけが、何とか生きのびることができました。
 大人たちは「最後の光」をおぼえています。それはそれはまぶしい、それはそれはおそろしい光でした。
人びとはシェルターから下へ、下へとほり進めて、小さな世界をつくりました。やがて、子どもたちも生まれ、それはそれはたいせつに育てられました。わずかな水、そして薬とサプリで命をつないで、何とか世界はつづいていきました。
 でも、もうだれも、外の世界にもどりたいとは思いませんでした。空気も大地も、生きていくことができないほどによごれてしまったから。そして何より、光がこわかったから。
 たった一人、ピリカのおじいさんだけが、外の世界をきれいにするための研究をつづけていました。でも、手つだう人はだれもいません。


「もう走れないの? いくじなし!」
 ピリカがいいました。
「きみがつよすぎるんだよ、ピリカ」
 ルオがいいました。
「きみは、こわくないの?」
 カイがいいました。
「上の世界をこわしたのは、大人がつくったカクバクダンよ。お日さまじゃないわ。おじいちゃんもそういってた」
「でもいったい、どうやって行くつもりなの?」
「上へ行くのよ。とにかく上へ」
「そんなことをしたら、外の世界に出てしまうよ」
「そうよ、あたし、出て行くのよ。これがカギ。おじいちゃんのとこからぬすんできたの。サプリだってこんなにあるわ。何日かかっても行くつもりよ」
 ほんとに、ピリカったら、何てことを!
 「最後のとびら」のカギをあければ「外」の世界へつづく道に出られることは、だれもが知っています。でも、そんなおそろしいことを本当にやろうとする人はだれもいません。
「外には放射能や毒ガスがいっぱいだって、きみのおじいちゃんもいってるじゃないか」
「でも、あたし、行くの。こんな暗いところはもういや!」
「暗いって?」
 ルオもカイも、この世界を暗いと思ったことはありませんでした。ここで生まれた子どもたちには、うす暗いのがあたりまえだったのです。
「行って、いったいどうするつもり?」
「おどりたいのよ、あたし。お日さまの光の中で」
 ピリカはおどりながらかけだしました。ルオとカイも、力をふりしぼっておいかけてゆきました。
二人がたおれると、ピリカはまたもどってきました。
「もういいわ。あたし、ひとりで行く。あんたたち、べつに、お日さまをみたいわけじゃないんでしょ?」
 そういわれて、ルオとカイは考えてみした。答えがでるまで、ピリカがイライラするほどの時間がかかりました。
「ぼくも行く。きみ一人であぶないところに行かせるなんてできないよ。それにぼく、ぼくもみたくなっちゃったんだ」
 ルオがいいました。
「ぼくも行く。ぼく、ぼくは、えっと、きみがおどるのをみたいんだ」
 カイもいいました。
「それじゃあ、もうちょっとがんばってみましょうよ。あたし、もう走らない」


 何日か歩きつづけてようやく、三人は「最後のとびら」にたどりつくことができました。
 カギをあけて、とびらのむこうがわに出ても、お日さまの光はみえません。三人は、もっと上へ、もっと上へと歩いてゆきました。
 しばらく行くと、うつくしい小鳥のむれに出あいました。
「カナリアだよ。図かんで見たことがある」
 ルオがいいました。
「あなたがたは外に行くの?」
 一ばんうつくしいカナリアがいいました。
「そうよ、お日さまにあいに」
 ピリカがこたえました。
「わたしたちは、お日さまがすきだから、お日さまに近いところでくらしています。ときどき、あいにゆけるように。でも、外に行くのはあぶないわ。外に行った仲間たちは、一わももどってこなかった」
「ひきかえそう。しんじゃうよ」
急にこわくなって、カイがいいました。
「あたしは行くの。もうきめたの」
 ピリカはきっぱりといいました。
「わかりました。お行きなさい。わたしがあんないしてあげましょう。お日さまのみえるとこまで。でも、それほどあぶなくないところまで」
 三人は、カナリアについて、上へ、上へと歩いてゆきました。ルオとカイは、何どもたおれ、へとへとになりながらも、ついてゆきました。ピリカはサプリをぜんぶ、ルオとカイにあげてしまいました。
 そうして何日かしてようやく、お日さまの光のとどくところまでたどりつくことができました。外の世界はすぐそこです。ピリカはかけだしました。
「止まって。それより先に行ってはだめ!」
 カナリアがさけびました。でも、ピリカを止めることはできません。
 ルオとカイは力つきてたおれてしまいました。頭がぼうっとして、立ち上がることもできません。そして、気をうしなう前に、二人はたしかにみたのです。お日さまの光の中でピリカがおどるのを。金色のかみをかがやかせて、くるくる、くるくる、おどるのを。


 三日ののち、ルオとカイは目をさましました。
「ピリカは?」
 みんながないていました。大人たちがかけつけたとき、ピリカは光の中にたおれていて、もう息をしていなかったということです。
 ルオとカイには、ピリカが死んだことがしんじられませんでした。二人は長いあいだ、病院のベッドにねこんだまま、おき上がることができませんでした。
 そしてある朝めざめたとき、ルオとカイはもう、いくじなしではありませんでした。
「いつかきっと、外の世界へ出て行こうよ。みんなで、お日さまの光の中でくらすんだ」
ルオがいいました。
「うん、きっと。そのために、ぼくらができることをやろう」
 カイがいいました。
 ルオは、ピリカのおじいさんのところで勉強をはじめました。外の世界をきれいにするための研究を手つだうのです。
 カイは、光の中でおどるピリカの絵をかきました。そのうつくしさに、みんなが涙をながしました。そして、みんなの心に、いつかきっとお日さまの光の中へ出て行こうという、勇気がわいてきたのでした。

(了)

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2004.06.01

フランチェスコの泉 (12)

 硝子戸を開けてやると、琉璃也が入ってきて、いきなり直樹の胸にもたれかかってきた。
 体が熱い。また酒でも飲んできたのかと思ったが、酒臭さはない。それどころかとてもいい香りがする。琉璃也は昨夜と同じ香水をつけている。妙な気分にさせる危険な媚薬。昼間、李に聞いた話によると、この香りの罠に落ちたのは自分だけではないらしい。
「ナオ、ナオ・・・・・・」
 とあだ名で呼びながら、琉璃也は両腕を直樹の背にまわして、きつく抱きしめた。
 その手がちょうど痛むところを圧迫したので、直樹は、反射的に琉璃也を突き飛ばしてしまった。
「あっ・・・・・・」
 琉璃也は、大袈裟によろめいて、床にくず折れた。大きな物音はたてないように要領良くやったので、隣室の者が様子を見に来たりはしない。しかし、直樹を慌てさせるには十分だった。
「すまない」
 直樹ははっとして、琉璃也をすぐに助け起こしてやった。
 琉璃也は、潤んだ目でじっと直樹を見つめて、言った。
「ひどいよ、ナオ。キミらしくない」
 琉璃也の大きな目には、大粒の涙が光り、濡れた長い睫毛に縁取られた瞳は、いっそう美しく輝いていた。それを琉璃也は知っていた。琉璃也は、涙を流したいときに流すことができる。この特技は、特に同室の者との人間関係において、効果的に使われる。それを直樹は知っていた。そして、そんな琉璃也がきらいだった。
「ひどいよ・・・・・・まるで、アキヒトくんみたいだ。おかしいよ。昼間なにかあったの?」
「なんでもない」
「何かあったなら、ボクに言えばいい。ボクだけは、キミをすべて受け入れる。心も、からだも・・・・・・」
 技巧的な甘い声でこんなことを言う琉璃也がきらいだ。しかし、それに頷いて応える自分の方がもっときらいだ。
 直樹は、机の上に並べた青い菱形の錠剤を、琉璃也に見られないうちにそっと片付けてしまおうとしたが、琉璃也は見逃さなかった。
「ハルシオン? へえ、キミも持ってるんだ。言っとくけど、それ全部飲んでも、自殺なんてできないよ。致死量は600万錠。嘘じゃないよ。前に同室だった奴が言ってた」
                                  (つづく)

*スミマセン。(遠野)

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フランチェスコの泉 (11)

 間もなく消灯時間だ。 琉璃也はまだ戻らない。
 直樹は、李にもらった薬袋からハルシオンを出して、自分の名前が書いてある薬袋に移した。李の名がある薬袋は破って捨てた。自分に処方された薬を他人に与えるのは、確かに薬事法違反に相当するのだろう。でも、これで証拠隠滅。自分に何かあっても、彼に責が及ぶことはない。
 せっかくだから、今夜はこれを服用して、眠ることにしよう。宿題は済んだし、予習も復習も万全だ。
 寮監の点検を受けるのは10分後、それが終わったらすぐに飲もう。
 琉璃也を避けるため、というより、背中が疼いて眠れそうにないから。
 背中に打たれた痕があることは、誰にも、琉璃也にも知られてはならない。早坂先生の名誉のためにも。
 それにしても、ハルシオンが増量になるとは夢にも思わなかった。何錠あるんだ? 全部飲んだら死ねるのだろうか?
 直樹が机の上で錠剤の数を数えていると、窓をコツコトたたく音がした。
 琉璃也が帰ってきた。
                               (つづく)

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2004.05.30

フランチェスコの泉 (9)

 うな垂れる李に、直樹は努めて優しく話しかけた。
「そうだよ」
李は、開き直ったようにはっきりと言った。
「言っちまいたかったんだよ、お前に」
「ぼくに?」
「お前なら、信用できる。お前なら、誰にも言わない」
「早坂先生のカウンセリングもあるだろう?」
「言えないよ。学院長に報告でもされたらどうするんだ?」
「それはないと思うけど」
「お前だけだ、ナオ。他には誰も信用できない」
「言わないよ、誰にも」


 転校してきたとき、同室になり、色々と世話を焼いてくれたのは李だった。李は要領よく学院生活、寮生活を楽しんでおり、その技術を伝授してくれた。転校したての頃、同級生たちは、両親ともに沖縄在住で、何の障害もない直樹を軽んじるような扱いをすることもあったが、李はちがった。
 ある夜、二人の部屋に朴という上級生が入ってきて、韓国語で李に話しかけていた。李はふざけた口調で、
―Hey, Mr.Park,
と、英語で答えた。その後、流暢な英語で喋ったことが気に触ったらしく、朴先輩はいきなり李を殴りつけた。直樹が止める間もなく、朴先輩は李を三発殴って出ていった。
 直樹は、ベッドで失神しいている李の顔と頭を冷やして手当てしてやった。意識が戻ると、李は言った。
「いいか、今見たこと、聞いたこと、誰にも言わないでくれないか? 俺が悪いんだ」
「うん、約束する」
今日に至るまでその約束は守られている。実は、誰かに言うも何も、そのとき李が言ったことは英語が流暢すぎて聞き取れなかったのだが、このときを契機に、李は直樹により親身に接してくれるようになった。


「俺には、お前だけなんだ」
と、李は、上品な顔立ちに映える切れ長の目をじっと直樹に向けて、言った。
 直樹はその目を避けることなく、慈悲深く受容した。その態度が李には気に入らなかった。
「でも、ナオ、お前はどうだ? お前はちがうんだろう? お前は誰にも甘えてこない。決して誰にも弱みを見せない。大丈夫なのか? お前はときどき、アキヒトくんよりつらそうだ」
             (つづく)

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2004.05.28

フランチェスコの泉 (8)

 李は、直樹の顔がまともに見られなくて噴水<フランチェスコの泉>に目をやったまま、続けた。直樹も、きらきら輝く水を眺めたまま、聞いてやった。
「あいつの噂は聞いていたから、被害者が増えないように、去年は俺が同室を買って出た。それなのに情けないよな、結局、誘惑にのってしまった。バカだよ、俺は。
言っとくけど、本当に一度だけだからな。その後、どうやってやり過ごしたと思う? これだよ」
 李は、ポケットから錠剤を出して見せた。
「ハルシオン。眠剤だ。眠ってしまえば、こっちがその気にならなければ、何も起こらない。あいつはそっちのタイプだから。だから、そうなる前に寝てしまうことにした。もう必要ないから、ナオ、お前にやろう。薬事法違反だけど、お前なら濫用することなんてあるまいし、全部飲んだとしても致死量にはならない」
「いらないよ。言っとくけど、ぼくは瑠璃矢と何もないよ」
「本当か?」
「本当だよ。確かに今日は体調が悪いが、それだけだ」
「本当に、それだけなのか?」
「それだけだ」 
 直樹は断言した。
「何だ、それじゃあ、何も俺が自分のことなんて話す必要はなかったんだ。何だよ、損した」
 そう言って李は、足元に落ちていた小石を拾って、<フランチェスコの泉>に投げ入れた。二人は立ち上がって、水面に波紋が広がるのを見た。
「バカみたいだ、俺」
 と言って、李は<フランチェスコの泉>の縁石に座った。直樹も隣に腰をおろした。
「ねえ、リー、誰かに言ってしまって楽になりたかったのは、きみの方なんじゃないの?」
                                            (つづく)

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2004.05.27

フランチェスコの泉 (7)

「言ってることがわからないよ、リー」
「自治会長には生徒会長にはない権限があって、部屋割り案を提出することができる。琉璃也の同室希望者に、お前の名が書かれていた。それで、希望を通してしまった。悪かった。俺が引きうければよかったんだ」
「僕は同室希望者の欄を未記入で提出した。だから、誰と同室になろうと、自治会長を恨んだりはしない」
「あいつと同室になって、何もなかった者は今までに一人もいないんだ。去年は俺が同室だった」
「え?」
 直樹は、信じられないというふうに、李の顔を見た。李は顔を背けた。
「誰にも言うな。一度だけ、たった一度だけだ」
                                 (つづく)

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